海外での安全管理を生業にしているものです。こんなサイトを運営しています。
前職の関係でアフガニスタンの担当をしたことがあり、実際にカブールで一時期仕事をしていたこともあります。
ご質問の件、「アフガニスタンの人々」、というくくりでは回答が難しいですね。
「日本の人々にとって自民党はどのような存在でしょうか?」
と今、街中でアンケートを取ってみたというのをイメージしてみてください。おそらくかなり答えがばらばらになるはずですよね。(タリバンと自民党を一緒にするのもなんだか、という感じですが、あくまで皆さんに身近でイメージできそうな例として)
一口にアフガニスタンと言っても、民族のレベルで違うグループ、民族的には同じでも部族が違うグループ、宗教的に異なる信仰を持つ方、そして収入源や保有資産額など色々です。
一般的に首都カブールや、これまでアメリカに支えられてきた’旧’アフガニスタン政府が支配していた主要都市部では欧米的な価値観に親しみのある方、欧米含む諸外国に親族がいる方も多いのでタリバンは抑圧的、非人道的な支配をするグループという意見が多いでしょう。
他方で、そうした都市部を離れ、農作業中心で暮らしている方からすれば、伝統的な生活を保証してくれる限り、そのための負担(税や兵役に相当すると考えても差し支えないです)を提供する相手がタリバンであれ’旧’アフガニスタン政府であれ知ったこっちゃない、というレベル感の方もいらっしゃいます。実際には自分たちの伝統的な暮らしと安定を守ってくれるのは、下手な汚職役人よりもタリバンだ、ということで農民の一部がタリバン構成員になっていたりするわけですよ。(要するにタリバンの一部は「兼業戦闘員」です)
また、ややこしいことに、伝統的な暮らしを一族で続けていくために、あえて兄弟の一人は’旧’アフガニスタン政府軍に、別の一人はタリバンに所属する、という一族としての「戦略」を取っているケースもあります。
さらに非常に不思議なことにそうした農村部の中でも極めて都市部から隔絶された地域では、そもそもタリバンと外国軍が争っているということを知らない人たちも暮らしています。
日本の皆さんに、一言でアフガニスタンの状況をお伝えするのはなかなか難しいのですが・・・。国のようで国ではない、様々な人がそれぞれの暮らしを大切にしているということだけは感じていただければ幸いです。
アメリカ軍が撤退した、というだけでは正直ここまで急速な政権崩壊は説明がつきません。各地にタリバンを支持している人/タリバンに参加してもいいと思っている人が一定数いるからこそこれだけ事態が急変したも言えますね。
いわゆる欧米的な人権や自由の大切さを決して否定するものではありません。むしろ日本人であり、その価値観に基づいて安全で衛生的な生活を享受している身としては、そのありがたみを痛感しています。他方で、長年(数千年の単位ですよ)大切にしてきた価値観や生活様式を「あんたたちはおかしい。我々のやり方が普遍的な価値観だ」と踏みにじられると死に物狂いで戦わざるを得ないという発想も理解できるように思うのですが、いかがでしょうか・・。
タリバンのやり方が正しいというつもりは全くありません。’旧’アフガニスタン政府の女性を含む公務員や学生を支援してきた身として、知己の方々が今まさに命の危機にあるにも関わらず自分一人で何もできないことに忸怩たる思いがあります。
ただ、もっと早く、タリバンの思考回路を理解し、そしてアフガニスタンの未来を切り開くためにアフガニスタン領内に住む人々がある程度納得できる統治方法、時間をかけた価値観の転換など働きかけはできなかったものか、と考える日々です。
こちらもご参考になさってください。