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Quora休止中でしたが、ちょいと回答します。

まずは目の保養を。シャオミの丸みをおびたスマホです。

(コンセプトなのか製品化されたのかは知りません。)

数ヶ月前、バルミューダがスマートフォンを出すということで、個人的に見出していた指標は「Surface Duoよりワクワクするかどうか」というものでした。言うまでもありません。

さらに別軸の指標として、

A)カスタムOSを搭載してくるか

B)システムUIを独自のものにしてくるか

C)アプリに手を加えるか

のどのレベルを狙ってくるだろうかと思っていました。

カスタムOSを用意してきたら「おぉ」という感じですが、結果は B と C の間くらいですかね。確かに、ソフトウェア開発のノウハウがほとんどない+リリース時期を考えると、OSから作れるとは思えません。

寺尾社長は強気の姿勢で、あるインタビューでは「人類がいちばん使っている道具なのに、あまりにも画一的」「明らかに既存の機種と違う提案をします」と述べていたので、ハード面は折りたたみや回転などの稼働機構を搭載してくるのかなとイメージしていました。

クレイジーに「絶対に欲しい」と言い切れるスマートフォンをつくる:バルミューダ・寺尾玄が語ったモノづくりの現在地(後編)

スマホでそこまでの独自性を出すなら少なくとも

  • iPhone型+カスタムOS
  • Android OS+ハードのギミック

が必要かなと思います。

あとはミュージックプレイヤー特化仕様とか、財布に入る3インチ極薄のカードサイズとか、市場や用途の隙間を狙う明確なコンセプトを打ち出す必要があると思います。

バルミューダPhoneを見て思ったのは、「普通のスマホやないか!」

もうね、コンピューティング的にも工業デザイン的にもコンセプト的にツッコミどころが膨大にあります。iPhoneのシェアがどうとか以前の問題です。

「カーブの背面なら手に馴染むよね」という発想は素人の思いつきの延長線上にすぎませんし、「背景画像の斜めストライプをスワイプして機能発動」なんかは個人アプリ開発者がやりそうな短絡的ジェスチャー割り当てです。

壺を真似た加湿器、ホウキを真似た掃除機、ライヴステージに見立てたきらめくスピーカー、そして今回のスマホ:川の丸石のような肌触りと丸みの本体。失礼ですがこの会社のデザイン哲学/決定プロセスには、科学的必然性ではなくアマチュア的発想のようなものを感じます。

あとこの会社、製品の品質よりも「言葉」が一人歩きしてしまっています。

「BALMUDA Phoneの形状や設計思想は合理的ではありません。しかし、芸術的です。」

芸術的創造はそんな単調で軽々しく掴み取れるものではないです。少なくとも、技術的蓄積がほとんどないメーカーの、しかも開発期間の短い、こんなワクワクのカケラも感じさせない低品質ガジェットからは到底具現化されるものではありません。この社長さんは、時代を超えて遺されてきた絵画・工芸品・建築物や、禅の不要なものを徹底的に削ぎ落とした境地にある美意識などに深く感動してきた経験がないのでしょう。公式サイトの各製品ページでもやたら「美しい〇〇」を連呼しすぎて、かえって上っ面のラベルに感じられます。

そして、あらゆるレベルで調査、研究、熟考がまったく足りてないように思います。

例えばデザイン性・美意識・高品質であれば、欧州(自動車でもバッグでも)や日本伝統のモノづくりをもっと研究、参考にすべきです。ホウキ型掃除機も、ダイソンが君臨している日本市場でよう恥じらいなく出せたなぁと思います。ダイソン掃除機のデジタルモーターは開発に10年、ソフトローラークリーナーヘッドの開発には12年かかったと言われています。技術の蓄積が違います。

スマホの着せ替え仕様について曰く、

「スマートフォンはもはや、生活の中で私たちのアイデンティティを保証する道具であり、重要なハードウェアです。これを表現するため、その背景は、各国のお札やパスポートから着想を得た、堅牢性を感じるデザインとしました。この上に自分のイニシャルや名前を乗せ、アイコニックなストライプを好きな色から選べば、それはもう自分のモノ」

とのことですが、

シャオミのカスタムOS「MIUI 7(2015年)」にはすでに、アプリアイコン・UI パーツ・ロックスクリーン解除スタイルも巻き込んだテーマ切替が実装されていたし、オンラインストアではユーザーがデザインしたテーマもダウンロードできました。これは楽しかったですね。

↓斜めストライプも基調デザインにしたいようですが、ホームの背景に設定されているだけでテーマやコンセプトとしては弱く、一貫性が不十分だと思います。

配色も特段センスが高いわけではなく、dribbbleのデザイナーたちならもっと目に心地よい配色を提案できるんじゃないでしょうか。

エルメスのApple Watchバンドのように、ハード(アクセサリー)と画面世界を統一させたほうが力強くなると思います。

ハードウェアのギミックを重視したアプローチであれば、デザインスタジオ nendo の佐藤オオキさんのコンセプト「slide-phone」が秀逸です。

slide-phone - nendo

バルミューダにはこれを製品化してほしかった。

繰り返しますが、この会社はあらゆるレベルで調査、研究、熟考がまったく足りてません。

今回のスマホは寺尾社長がデザインしたようですが、失礼ながらセンスが十分な高みに達してないと思います。

僕も大学卒業間際に自作アプリをリリースし、自分のデザインに違和感を抱いてなかったんですが、確か23歳の頃だったか、App Storeのレビューで「外部のデザイナーにデザインしてもらったほうがいいんじゃないか」と指摘されてショックを受けたことがあります。今の寺尾社長も似たような状態に見えてしまいます。

コンピューティング的にも見方がすごく甘いです。すでに家電資産があるのに、どれ一つとして連携できない。ケトルの温度管理や予約設定も、ワイヤレススピーカーの光パターンを調節することもできない。

例えばデンマークの高級音響メーカー Bang & Olufsen の製品は基本的にすべて専用アプリに対応しており、イコライザー調整やファームウェア更新ができ、スマホを中核として複数の別種スピーカーから同時に音楽を流せます。つまり豪邸のような広い屋内にも対応できる。

ところがバルミューダの製品たちは「お互いがお互いを知らない」あるいは「文脈の存在を知らない」。

ワイヤレススピーカーとランタンはキャンプでの利用に相性がいいのにデザイン言語が統一されていない。その2つを一緒に安全に持ち運べる専用ケースがあればキャンプ用品とともにクルマに放り込められるだろうに。おまけにワイヤレススピーカーは防水仕様じゃないし、暗いところで使う前提なのにボタン類にバックライトは搭載されていない。

そしてやはり「言葉」が一人歩きしてしまっています。

「2020年の正月の休暇。私は自宅でひとりで考えていました。かつてはロックスターを目指した私です。彼らは世界中のファンに愛され、一つのフレーズで人々の不安を取り去り、希望を与えていました。どうせ働くなら、彼らのように輝いてみたいですよね。時は今。そう。やりたかったことを、する時なのです。コンピューターを作りましょう。20年越しの恋人に会いにいくのです。そしてなんと、その恋人は、手のひらサイズになっていました」

ストーリー|BALMUDA Technologies

20年越しの恋人、、、言葉で着飾るのが好きな方ですね。「彼らのように輝いてみたい」とかはもう完全に利己的な欲です。製品ごとにいちいち開発ストーリー(美談)を付け加える姿勢からも、自己主張の強さを感じます。

自称"美しい"製品群を生み出す自分に酔いしれている「じつはダサいおじさん」といったところでしょうか。要は中二病なんですが、そういう僕自身、そっち出身でして、彼の姿を見ていると自分の心にグサグサと刺さってくるものがあります。イタタタタッ...

バルミューダのモノづくりって、イーロン・マスクのような「本格的な人類前進」ではなく「社長の趣味」なんですよ。アマチュアなレベルにとどまったオママゴトです。

例えば Vermicular という日本の調理器具メーカーは「世界一素材本来の味を引き出す鍋」を目指し、日本の職人が厚さ3mmの鉄鋳物を手作業で0.01mmの精度で削り出すなどしています。

Vermicular(バーミキュラ)

同じく日本の ANAORI というメーカーは、一台で炊く、煮る、蒸す、焼く、揚げるを担う釜を販売していますが、カーボン・グラファイトの塊を削り出して作ることで、鋳鉄/アルミ/ステンレスの大量生産な製造方法では実現できない形状を実現しているそうです。「芋型」といわれる、伝統的な羽釜の形状を忠実に再現しています。国内外のプロのシェフたちにも支持されているようです。

一方のバルミューダは、一つの領域を徹底的に深く追求するようなことはしません。あるカテゴリーの製品を出したら、それをどこまでも改良しようとせず、次のカテゴリーに移ってしまいます。

東急ハンズでバルミューダの炊飯器のサンプル品を見かけたんですが、シルバー塗装が傷だらけ、あちこち剥げていてすごく安っぽく見えました。羽釜っぽい見た目はただの演出。

Amazonのレビューにあった、擦り傷が悪化した内釜の写真ですが、一ヶ月もしないうちに付き始めたとか。

しょせん炊飯器なので、プロの料理人が使っている事例もないようです。

売り場に置かれていたカタログ冊子(バルミューダと Vermicular の両方)も持ち帰りましたが、バルミューダ製品の冊子は中身がスッカスカで驚きました。本当に深くこだわって作り込んだ製品なら語りたいことなんて山ほど出てくるはずですが、訴求力の物足りなさを感じました。

掃除機の開発ストーリーの中に、こういう言及があります。

「2018年の年末、バルミューダのデザインチームは困っていました。バルミューダの次の製品ジャンルを確立すべし、という任務に対して具体的なアイディアを出せていなかったからです」

要するに、私たちは長期ヴィジョンを描いていません、と言っています。

辛辣かもしれませんが、バルミューダのモノづくりはオママゴトであり、社長一人で自惚れダンスをしているようなものです。人類社会に対する確固たる使命をもっていないということです。 「高級家電メーカー」だなんてそんなそんな、盛るのはよしてください。

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