同感です。
たぶん「ディスプレイ」そのものが原因なんじゃないかなと疑っています。これ言葉で説明するのがすごく難しい微妙なニュアンスなんですけど、なんでも表示できる「ディスプレイ」が付いた瞬間、品がなくなる、みたいな。
腕時計って高繊細で高品質な工業製品、もっと言えば芸術作品の領域にまで踏み込んでしまった製品カテゴリーじゃないですか。歴史も長い。硬質な素材の塊でありながらファッション性が非常に高く、肌むき出しの腕に装着していても違和感がないどころか人間を引き立ててくれたりします。
で、そんな「フィーリングと調和」があってなんぼの世界だと「ディスプレイ」はまだまだ見苦しいというか、チンケな存在に見えてしまうのかもしれません。
どんなに高品質な素材で精巧な作りをしていても、ディスプレイが前面を覆っている時点でガジェットっぽくなってしまう、ということでしょうか。
何も表示されてない真っ黒なスクリーンはなんだか無愛想で、ファッション性や人間味をわずかに遠ざけているような気がします。
金属や革などの物質素材の質感や光の反射具合に比べ、「画面やグラフィック」は美的観点でまだまだ劣るんでしょう。
もちろん Apple Watch の画面品質やUIアニメーションは地球上でトップクラスだしアップルもじゅうぶん頑張っていると思いますが、それでも素材がもつ美の水準にはまだ到達してないんだと思います。
わかりやすい例として、数年前、イヤーカップにタッチスクリーン搭載のヘッドフォン「Vinci」が登場しましたが、他のヘッドフォンと比べるとファッション性に劣り、いかにもガジェオタ向けな雰囲気が漂います。
別の例として、高級ファッションブランド、PRADAの名を冠した「PRADA Phone」。
ね、チンケでしょ?
左が2012年発売のスマホ、右が2008年発売のケータイ。ともにLG製。
僕は右のケータイ版と中身が同じLGケータイを使っていましたが、動作がもっさりでUIの融通がなくタッチ仕様も煩わしく、憤りが1年で限界になり iPhone4 に機種変したのです。同じ時代のモノとは思えないほど iOS とタッチ感度が洗練されていました。
最後にもう一つ例え話をしますと、高品質な製品を生み出し続ける高級オーディオメーカー Bang & Olufsen の昔の2製品を比べてみましょう。
ひとつはCDを6枚扱えるCDプレーヤーです。
もう一つはサムスンと共同開発のオーディオプレーヤーらしきもの。
実はこの2製品ともデイビッド・ルーイスという著名デザイナーがデザインしています。
この2つを見比べてみると、ケータイみたいな製品のほうが古臭く感じられませんか?いっぽうCDプレーヤーのほうは、今見てもオブジェとしての陳腐化しない造形美が伝わってくるのではないかと思います。
Apple Watch でさえ、画面が角丸ではない旧世代を見ると古臭く見えますよね。だからたぶん「ディスプレイ」に普遍性が宿ってないんだと思います。もしくは右脳的ではなく左脳的な代物になってしまう。
工業製品って多機能なディスプレイが付くとかえって劣化するみたいです。
もしディスプレイ技術を使って普遍的な工業デザインを実現したいなら、表示UIを(配色含め)ギリギリまで簡素にするといいのかもしれない。
↑の2製品は同じくB&Oの現行スピーカーです。
ファッション性の観点で言えば、Apple Watch は腕時計よりも「ペンダント型」のほうがマッチしているような気がします。ラグジュアリー感がある。
もうこれでいいじゃん。
もしかしたら本格の腕時計が前面スクリーンになるのは間違いなのかもしれない。でもスクリーンの進化具合によっては状況は変わるかもしれません。
そんなこんなで個人的にはいまだにスマートウォッチを装着したい気持ちにまったくならないんですが(たとえあちこちで見かけるようになっても)、10年前に iPod nano 第6世代を腕時計化していたことがあります。
Kickstarterで成功し製品化した「LunaTik」という製品。
自分が使っていたのはこっちのミドルレンジモデル。
Apple Watch を腕にはめたことはありませんが、iPod nano は腕にはめていたことがあります。
この正方形 iPod は画面ON時にアナログ時計を表示する、という気の利いた設定があったんですが、時計を確認するたびサイドボタンをいちいち押さないといけないのはやはり実用に堪えませんでした。
手首に目をやった瞬間に時計を確認できないのは腕時計として欠損です。原付に乗っているときなんか両手がハンドル握ってるわけで、信号待ちとかで時間をチェックできないのはストレスでした。(週一の充電もめんどうだった)
と思いきや、半年後にLunaTik専用のアナログ時計が発売、即購入。
↑ iPhone4+ミクロレンズで撮影。
学生時代のアパートで撮った写真です。(アップルファン丸出し)
Apple Watch開発がスタートした時もこの正方形 iPod nano をベースに進められていたそうで。
ただこの体験をしていたので、スマートウォッチが腕時計として実用レベルになるには「画面常時点灯」は必須だろうと。アップルはどう対処してくるだろうと見ていましたが、普通にフルカラーの画面ON/OFF仕様だったのでガッカリしたのを覚えています。今は改善されてきていますけどね。
それにしても、この「ディスプレイ普遍性問題」はコンピューティング×美学で事をなしていこうとしている身としては悩ましく、どうやって乗り越えていくべきかと頭を捻らせているところです。